
『毎日をちょっと楽しくすることも社会貢献』左京 泰明 x 堤 隆弘

堤(以下T):
これまでこのコーナーでは何かのクリエイターとの対談ばかりだったのですが、今回左京さんはクリエイターではなくて、「学長」ということで。
左京(以下S):
学長といってもそんな偉そうなものではないんですよ。
T:
まずはその、左京さんが学長を務めている「シブヤ大学」というものについて教えていただけますか。
S:
はい。概要からいいますと、渋谷全体をキャンパスにして、毎月第3土曜日にいろいろな講座を開いています。2006年に開校して、今年の9月で2周年を迎えた大学です。2年間で約200講座、生徒さんはのべで1万人を超えています。授業のほかにも、校外学習という形で郊外の農村などに体験学習も行なったり、大学という名前なのでゼミのようなコミュニティもあります。そのほかにも、クリハラさんとキャップやハットを作ったコラボレーションのようなものもあり、実際にキャンパスなどの建物があるわけではないのですが、関わりのある会社さんやお店などで「大学」というコンセプトでいろいろなことをやらせてもらっています。
T:
「シブヤ大学」という名前ですが、なぜ「渋谷」だったんですか。
S:
もともと渋谷という場所で始めた理由は、渋谷でおもしろいことが起こっていると、情報がいろいろなところに飛んでいくんじゃないかなって思ったんです。そうすると、いろいろな地域の人が、うちではこんなことができるとかいう声が挙がると思うんです。実際にこれまで10ヶ所以上で、うちでもやってみたいという人が現れてくれたんです。そういう声を拾って、3年目以降はやっていきたいなって思います。実際に10月に京都に姉妹校が開校するんです。「カラスマ大学」っていうんですけど。これからはそういうことをやっていきたいと思います。
T:
ぼくはクリハラの帽子デザイナーなんですが、リユースの素材を使ったデザインを多くやっていますっていう自己紹介でいいんですかね(笑)
S:
大丈夫です(笑)。例えばここにある和紙を帽子にするっていうアイディアは、和紙という素材が先に頭に出てくるんですか。「和紙で帽子を作ったらおもしろい」とか。それともデザインがあって、そのデザインにはどんな素材が合うかという考えから出てくるんですか。
T:
あまり深く考えずに作るほうなんです(笑)。たまたまここにあったもので、「じゃあ、これ使って作ってみようか」みたいなノリでやっています。例えば会社の下に自転車屋さんがあるんですけど、そこにだめになったタイヤのチューブが山積みになってたんです。自転車が流行ってるっていう頭もありましたけど、その廃チューブって使えないかなって。それでここにある帽子のここ、普通ならリボンの部分に使ってみたんです。
S:
あ、ほんとだ。
T:
そのほかに、レストランへ行った時に、シャンパンとかのドリンクの王冠を小道具に使ってみたり。いろいろ話をしている時にそれを使えそうとか思ったりすることもありますし、何か「それいままでなかったね」みたいなのが、一番気になる部分かもしれませんね。とはいえ、偶然の出会いみたいなのが多いですね。

T:
すごく興味があるんですが、なぜ「シブヤ大学」というものを始めたんでしょうか。
S:
さきほどのお話のなかで、素材とデザインとどちらがさきにあるんですか、という話を聞きましたが、何となく近いのかなって思って聞いたんですよ。帽子って、手にとってもらって使ってもらって。そうするとその人の毎日がちょっと変わる。シャキっとしたり、うれしくなったり。そんな気がするんです。シブヤ大学は物を提供するわけではないんですけど、新しいことを学ぶ場、もしくはいっしょに学ぶ仲間を提供することができる。それが受講者の方にとって帽子のように、自分が変わるものになればいいかなと思ったんです。
T:
それが「社会貢献」にもなると。
S:
そうですね、「社会貢献」っていうと、大上段にかまえて「世のなかをこう変えるべきだ」って声を挙げているイメージがあるんですが、そういう大きなことよりも身の回りの人たちのこと、あるいは自分自身のことを思いながら毎日がちょっと楽しくなればいいなっていうのも「社会貢献」だと思って、それをサービスとして提供できたらいいなと思ってシブヤ大学を始めたんです。堤さんのほうはどうですか。リユースっていうといまのエコ流行から「社会貢献」的にもとらえられることもあると思うんですが。
T:
ぼくも似てますね。とにかくかぶってもらいたいなっていうところから始まってます。こういうものが時代性にあってるとか、求められてるとか考えてたら、一点ものとか人の手がきちんと加わってたりっていうのが頭に出てきたんです。一点ものってうれしいじゃないですか。だから帽子のデザインや素材を考えるよりも、かぶってくれる人が手にとってうれしいというものという考えからですね。だからやっぱり似てると思う。
T:
シブヤ大学は学校法人として運営してるんですか?
S:
いえ、形態はNPO法人として運営しています。
T:
立ち上げのとき、学校法人というのは難しいにしても、株式会社といったものを考えたことはなかったんでしょうか。
S:
当然ありました。まずシブヤ大学という仕組みというかアイディアが先にありますよね。こういうことをしたら喜んでもらえるかもしれないっていう。じゃあその仕組みを運営していくためにどういう方法があるかって考えて、法人形態があるわけです。そのなかで一番ぼくらが思っているアイディアに適するものはどの形態なんだろうって考えて、NPO法人にしたんです。NPOの非営利っていうのは簡単にいうと利益を配分してはいけませんよっていうことですよね。利益は次期の経営に回しなさいっていう。その考え方は自分たちの考え方を体現できるかなって。
T:
じゃあ、いわゆる「もうけ」っていうのは目指してない?
S:
それはとても難しいと思いますね。もうけないと運営はしていけない。けどぼくたちの目的っていうのはもうけではなくて「公益」であるというのは定款にもきちんと書いてあります。簡単にいってしまうのは危険なんですけど、一般の会社はもうけてお金を配分するというのが目的で、ぼくらはもうけを「活動の資金」にするっていうことです。だからそもそもの目的、大前提が違うわけです。
T:
お金もうけというのは手段でしかないということですね。
S:
何度もいいますが、割り切っていってしまうわけにはいけませんが、最終的には、そうです、という答えになるのかな。目的と手段。一般の会社も目的が大前提で、もうけることが最終目的ではないはずですから。もうけるという手段はそれほど変わらなくても、目的が違うというところに尽きると思います。

T:
話は変わりますが、個人的には伝統工芸に興味があるんですよね。古いものに立ち返るっていうより、例えば「久留米がすり」みたいなものを取り入れて、若い人たち向けに作り直していきたいって思いますね。
S:
それはなぜ。
T:
実家が農家をやっていて、そういうのも関係あるのかな。素朴な感じが何かいいなって。でもやっぱり、いいものは残していきたいっていう気持ちですね。でもそれを新しいものに取り入れていきたいんです。それがこれからやりたいことですね、原点回帰っていうのかな、漠然としてますけど。左京さんはシブヤ大学でこれからやりたいことは?
S:
最初にもいいましけど、シブヤだけじゃなくて、いろいろな地域に活動が広がっていけばいいなって思ってます。あとはぼくも漠然としているけど、学校でこういうことを教えたいというよりも、学んだことを生かして個人や地域が活気づいてくれたらいいなっていう感じですね。学校を離れて育ってくれたらいいなって。
T:
離れたところでっていうのはわかるかも。自分が作った帽子をかぶってくれてる人を見かけたんですけど、それが自分がデザインしたはずの帽子なんだけど、すごくぼろぼろなんですよ。それなのにかぶり続けてくれてる。ぼくが意図したことじゃないけど、すごくうれしかった。
S:
嬉しいことってありますよね。視覚障害を持っている方に向けた、映画音声字幕を作っている方がいたんです。普通の会社員の女性だったんですけど、講師をお願いしたんです。その授業のあとにゼミができて、もう1年間ぐらい活動をされているんです。それがすごく嬉しかった。その方は会社をやめられて、その活動に専念されたっていうことなんです。そのきっかけとなったのがシブヤ大学だったっていうのがすごくうれしかった。
T:
おー!! いい話!!